毎週日曜日は教会の帰り道にドライブに出かけるのが、我が家の定番。
紅葉の綺麗なセントラルパークだったり、自由の女神を眺める小さな公園だったり。
少し遠出して対岸の大きな公園に出かけたり。
早起きしてお弁当を作るのは、全然苦にならない。家族が喜ぶ顔が見たいから。
今日のおかずは何にしよう。
フレッドの好きなポテトサラダだけは忘れずに。
ああ、今日はアンソニーも一緒だから、彼の好きなスパイスを効かせたフライドチキンも作っておこう。

フレッドと結婚して、もうすぐ10年になる。
大企業の御曹司と造船会社の社長令嬢の結婚、なんて世間では騒がれたけれど、当人同士はいたって普通に結婚生活を送ってきたと思ってる。
フレッドはとても誠実な人で、私は高校生で初めて彼に会ったその瞬間から、ずっとずっと彼に恋をしている。もちろん、今でも。
彼に恋をして、そして幸せなことに彼にも愛されて、結ばれて。
可愛い子供も2人、授かった。
フレッドの仕事はいつも忙しいけれど、でも必ず日曜日には休みをとって家族の時間を作ってくれる。
なんの不満も無い、幸せで穏やかな生活。

「ケビン、危ないから木に登るのはおやめなさい!」
「アンソニーが一緒だから!!大丈夫だよ、マミー!!」
「ナンシー、男の子はケガをして大きくなるもんだって、心配するなよ。
ほら、ケビン、もちょっと上まで登って来い!」

アンソニーはフレッドの学生時代からの親友。
ちょっとだけ口が悪くて、でもすごく心根の綺麗な人。
子供たちにとっては、彼はヒーロー。
ケビンは一緒に秘密基地を作ったり(男の子って、どうして秘密基地を作るのが好きなんだろう?)木登りをしたり。
レイチェルは「大きくなったらアンソニーのお嫁さんになる」なんて言ったりもして。
まるで少年のように子供たちと遊んではしゃぎまわるアンソニーを見ていると、フレッドとは正反対のタイプだからこそ、この2人はいつまでも仲がいいんだろうなと思う。


遊びつかれてしまった子供たちを子供部屋に連れて行くのは私の役目。
リビングではフレッドとアンソニーがブランデーを飲みながら笑いあっている。

「彼女は元気だよ。」
「今は教会で子供たちに歌を教えてるんだ。今度のクリスマスにはクリスト生誕劇をやるって張り切ってた。」
「結婚は、しないって決めたみたいだ。でも、彼女は幸せに暮らしてるよ。今という時間を大切に生きてる。」
「君からのクリスマスカードは、毎年喜んでるよ。お返しが出来なくてごめんなさいってさ。」

途切れ途切れに、2人の会話が聞こえてくる。
聞こうともなしに聞こえてしまう。
クリスマスカード?
なんのことだろう?
ああ、フレッドが毎年必ず自分で選んで自分で書いて自分でポストオフィスに持っていく一枚のカードのことかしら。
そんなことを考えながらも、私も眠気に抗えなくなって、子供たちの寝顔を見ながら眠りに落ちてしまった。

ドアの開く音で目が覚めると、隣にフレッドがいた。
「アンソニーは?」
「帰ったよ。ああ、ふたりともぐっすりだな。いい顔して寝てる。」
「ねえ、あなたも、小さい頃はあんなにやんちゃだったの?」
レイチェルの絹糸のように柔らかいその髪を撫でながらフレッドが答える。
「昔は、ね。男の子は皆、やんちゃをして大きくなるんだよ。」
その瞳に懐かしさだけではなく、ほんの少しの寂しさが混ざったように見えたのは、彼が本当のご両親と過ごした田舎町を思い出しているからだろうか。
フレッドは、その田舎町で過ごした6歳までの話を一切口にしない。
だから、私は小さな小さなフレッドがどんな子供だったのかを知らない。

でも、いま、この時。
家族と過ごすとっておきの時間。
この時間が私の大切な時間。守るべき世界。
それが全て。

そんな思いを込めて、隣に座るフレッドの手をそっと握る。
「ん?」
フレッド、愛してるわ。
彼の目を見つめながら、声にならない声で答えて、私はもう一度手を強く握った。

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「愛するには短すぎる」SSです。
(需要が無いのは承知の上。自分が書きたいから書きます)
誰もが気になるであろう、フレッドのその後の物語。
このお芝居を最初に見たときから、私の頭の中のSSはナンシー目線でした。
冒頭の結婚式のシーンだけで、ナンシーという女性像をしっかり描き出してくれたウメちゃんに感謝を込めて。
あのナンシーなら、きっとフレッドは幸せになるんだろうと思うんですよ。
大丈夫。うん。

アンソニーとクラウディアは独身認定です。
きっと2人とも、生涯独身を貫くんだろうな、と。
でもちゃんと幸せなんだよ?
だから、フレッドも安心して大丈夫。

毎年送るクリスマスカード、というネタは11月9日の夜公演を見終わった後に突然浮かんできました。
あの日、わたる君は白いロングコート姿だったんですが。
きっとその姿が「ホワイトクリスマス」をイメージさせたのではないかと。

ああ、でも今年はわたる君にクリスマスカードを送れないんだなあ・・・・・・。

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